初音ミクの色

‪自分の趣味のひとつに油絵がある。‬
‪油絵は高校から始めたのだが、初めは溶き油のなんとも言えない鼻につく香りやなかなか乾かないところにうんざりしてしまった。しかし今ではゆっくりと時間をかけて描けるというのは素晴らしいと思う。時間をかけるので愛着も湧く。先日何か新しく絵を描こうと画材を探したところ、いくつかの油絵具のチューブが無くなっていることに気づいたので、最寄りの画材屋に絵の具を買いに行った。品ぞろえがよく、こんなに細かに色を分ける必要はあるのだろうか?と思わせるほど沢山の色が並んでいる。どうせならいくつか追加で買っていこうと好みの色を物色していると、妙な名前の絵の具を見つけた。初音ミクの色。初音ミクってなんだったけ。ああそうか、ボーカロイドだ。懐かしい。これは何かのコラボ商品か何かなのだろうか。それにしてはパッケージは地味だし、あまり目立っていない気がする。緑とも青とも言えない独特の色だったので、これはおもしろいと購入し家に帰って使ってみることにした。いつも使っているペーパーパレットを机に置き、初音ミクの色のチューブを箱から取り出す。そこで奇妙なことに気づいた。チューブ自体がぬるい。普通なら金属を触れば冷たいと感じるはずだが、この手に持っているチューブは冷たくない。ほんのりと熱を持っている。不思議に思ったが大したことではないので無視して絵の具をパレットの上に出してみると、酷く色褪せた、濁ったような色だった。感触もブヨブヨとしていて弾力がある。まるで臭いのない腐乱死体だ。そう頭に浮かんだ瞬間、ああそうだったのかと納得する。死んだ。初音ミクはもう死んでしまったのだ。もうあの頃の元気な初音ミクはいない。全てデジタルの幻影だった。今ではこうして初音ミクの腐乱死体がかき集められてアートの材料として売られるだけなのだ。俺はひとりでそう納得して、チューブをパッケージに戻して棚にしまった。‬