後輩「先輩疲れてるんですかー?肩揉んであげますよ~?」

後輩がある日の放課後そんなことを言い出したので私はどうしたものかと少し考える。


私は市内の公立高校の生徒であり、文芸部の部員である。
しかし文芸部といっても活動内容はあまりなく、年に一度の部誌の発行以外は大抵部員は暇を持て余している具合だ。
その為部室にはほとんど人は来ず、たまに来る者も放課後の時間を無為に過ごすことが目的である。
しかし私は違う。私は純粋に文芸部として本を読む活動を行っているのだ!それも毎日。断じて暇というわけではない。
そんな訳で二年にして部長という大役を背負うことができた!業務は部室の偉大なる鍵の管理、そして窓際に生い茂る深き森のような観葉植物への水やり!
二年にしてなんという活躍!同輩諸君は私の輝かしい活躍を指をくわえてみているがよい。・・・はぁ。こんな風に自分を奮い立たせないと心が持たない。
どれもこれもあの後輩のせいである。後輩は名前を深瀬と言った。
ロングの黒髪で、黒いフレームの眼鏡を付けている。胸はそこまで大きくないが私と同じくらい背丈があるため威圧感がある。
彼女も毎日部室に来るが、本などは一度も読んだことはなく、やることと言えば私への妨害である。

「せんぱーい、何読んでるんすか~?」彼女はそう言いながら私の背後に回り込み、肩の上に顎を載せてぐいーっと体重をかけてくる。

「ああ、寄りかかるな寄りかかるな!重い重い!わかったからわかったから!」
彼女は本の名前など微塵も気にしていない。私にかまってほしいだけなのだ。しかしそれにしたってこれが毎日である!部長の業務に後輩への対応はない、恐らく。
極力無視しようとするが、そうすると彼女はこうして直接攻撃を仕掛けてくる。とにかく参ったもので、しかし後輩であるが故怒る気にはなれない。

「いてっ!」彼女が鎖骨と肩の繋がる辺りにあごを載せた途端、その周辺に鈍い痛みを覚え思わず声をだしてしまった。

「あれ。大丈夫ですか?すいませんそんなに強くやったつもりじゃないんですけど…」

強くなくたって肩に顎を載せる行為は許されることではないと思った。

「この辺でしたよね~、ふむふむ…それっ!」グリッ!「いってぇ!」

「ふむふむなるほどー。先輩、どうやら肩がすごく凝っているようですよ。さっきグリっとしたところは肩井(けんせい)というツボなんですけど、すごく固くなってます。カチカチ…なんだか卑猥!キャッキャッ」

なるほど肩こりか。放課後は部室で猫背になって本ばかり読んで目も酷使していたのが原因だろう。血流が滞り、筋肉はいやらしく凝固して私を苦しめる。

「先輩疲れてるんですか-?肩揉んであげますよ~?」
少し考える・・・しかしたまには後輩に任せるのもいいだろう。私は後輩に完全に任せてみることにした。

「それじゃマッサージはじめますね!ふふ!」後輩はそういうと私の肩を両手で擦り始めた。すりすり。すりすり。
「・・・?指圧とかするんじゃないのか?」
「まずは肩の周りの血行を良くするために両手で擦るんですよー。いきなり指圧ってあんまりよくないらしいんです」
知らなかった。後輩はマッサージに詳しいのだろうか?
肩の上部から肩甲骨の周り、そこから背骨に沿って順番に擦っていく。肩甲骨の下の辺りを擦られるのが心地いい。伝わるかな、と思いつつ頷いてみるとその辺りをたくさん撫でてくれた。
背中に後輩の手の熱が伝わってきてぽかぽかしてきた。なかなか上手くて脱力してしまう。

「それじゃまずは軽く揉んでいきますね」
彼女の手が肩と首の間の筋肉をつかみ、軽くもみほぐしていく。「ぐいっ、ぐいっ」親指を首の付け根のあたりに添え、軽くだが指圧もくわえてきた。
ガチガチだった肩がほぐされていく。血が流れる感覚が気持ちいい。
「ほ~らぐりぐり~ぐにゅぐにゅ~」僧帽筋の辺りを親指と他四本の指で挟まれ、ぐにゅぐにゅと揉まれる。少し痛いが気持ちいい。
「やっぱり凝ってますね~。先輩。私がいてよかったですね~?」
いつもならそんなことはないと即答したくなるが、今だけは後輩がいてよかったと感じる。気持ちよくて声が漏れる。
今度は肩をしっかりと掴んで、手の付け根、掌底の部分で肩回りを円を描くようにほぐしてくる。少し力がはいって左右の肩が揺れるが、それも含めて痛気持ちいい。

「あとそれとー。ずっと下向いてるし、首も凝ってるんじゃないすかねー。先輩の無駄にでっかい頭を支える首君かわいそう。先生に言ってやるー。それじゃ失礼しまーす。」
首の後ろをやさしく揉まれながらだと後輩の戯言も気にならないばかりかむしろ気持ちよく感じてしまう。  ッ!?
「あれー。先輩、聞いてます?こしょこしょ。せ・ん・ぱ・い 聞こえてますかー?」
「突然耳元でささやくな!びっくりする!」
「そんなこと言って気持ちいいくせにー。ほらぐりぐり~。こしょこしょこしょ・・・」
耳のそばで囁かれながら首を揉まれる経験は初めてだった。思わず声が出てしまい赤面してしまった。
「あー。せんぱい、顔赤くなってる。なんでかなー?ぐりぐり・・・」
恐らく現在の羞恥と快感は全て後輩にはお見通しなのだろう。ああ、私の弱点がバレてしまった、しかし今はそんなこと考えられない。
上から下へと血液を流していくように揉まれる。

「それじゃ、いよいよ背中行きますねー。」
首を揉んでいた手は背骨を渡るようにすーっと下ろされて、肩甲骨に添えられる。人間の腕は肩甲骨がなければ肩の関節にあわせて横90度までしか上がらない。
地面と水平な腕をさらに上げるとき肩甲骨が働き、腕をまっすぐ上に上げることができるし、その他にも肩を前後に動かすことができる。この肩の柔軟さにおいて人間は他の生物よりずっと優れている。
しかしそれだけ可動域があるということはその分筋肉、腱、靭帯で支える必要があり、それ故に故障しやすい箇所だ。四十肩などはそれらの慢性的な炎症によって起こされる。
定期的に柔軟や適度なマッサージを施すのが予防に効果的である。「先輩なにブツブツ言ってるんすか?」つい長くなってしまった。

「ここが肩甲骨でー、その周りを覆っているのが広背筋。そして背骨から腰に掛けて縦に伸びているのが脊柱起立筋群です。
 押していきたいんですが…ここからは手の力で押すより体重かけたほうが楽なので机の上に寝てもらえますか?はい、ありがとうございまーす。」
もはや後輩の言いなりである。
「よっと」後輩が私のお尻の上にのしかかる形に座り、やや前傾になって肩甲骨の下の辺りから腰に掛けて指圧を始める。
「結構体重かけてますけど大丈夫ですかー?先輩なら大丈夫か。」上から下にに血流を押し上げるように指を動かされると気持ちよさと息苦しさで喘ぎを漏らしてしまう。
思わず目が落ちてきてしまう。……



「先輩起きてくださいー。もうすぐ生徒帰宅時刻ですよー。」
はっとした。気づいたら眠ってしまっていたようである。
起き上がると体の軽さに驚いた。肩が軽いし、背筋はぴっちりと伸びる。マッサージにこれほど効果があるとは。

「これからは本を読まずに私を構うとー、いいですよお」
誰が構うか、それでも私は本を読むぞ。
・・・・またしてもらいたいし。